特集2 北海道大学アイヌ・先住民研究センター

「あたりまえの社会」の実現をめざして。

北海道大学アイヌ・先住民研究センター

なぜこのセンターが北大に必要なのか。

 2007年に先住民族の権利に関する国連宣言が採択され、2008年、ようやく日本の政府がアイヌ民族を先住民族として認定しました。本学が2007年に「北海道大学アイヌ・先住民研究センター」を設立したことについて、加藤博文教授は「胸を張って言える反面、なぜもっと早くできなかったかという反省もある」と語ります。では、なぜこのセンターを北大に設置する必要性があったのか。加藤教授によれば「北海道で、先住民族としてのアイヌの人たちと本州から入ってきた和人と呼ばれる人たちとの間で、過去に何が起きていたのかを知り、問題をきちんと理解する。その上で共生していくための環境や方向性を創らなくてはいけない」からです。過去から現在、未来までを見つめて研究を進めるためにこのセンターが設立されたことになります。
 名称に「・先住民」が含まれるのには理由があります。1つはアイヌ民族の文化・歴史・現状に関して、海外にも英語で発信していくため。もう1つは、海外の先住民族がどう法制度を構築し権利を獲得してきたか、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、アメリカ、ヨーロッパなどから情報を得て「国際的な比較研究としての先住民研究もしますよ」というメッセージが入っているためです。
 センターを紹介するパンフレットの中で、常本照樹センター長は「『あたりまえの社会』の実現をめざして、たゆまず、進んでいきたい」と記しています。加藤教授は「あたりまえじゃないこと」で一番問題なのは「自分の帰属をアイヌだと言えない状況」だと言います。また、「祖先から受け継いだ言語や文化を、補助制度がなければ子孫に継承していけないことも、あたりまえではないでしょう。国が文化振興に支援したほうがいいのはまちがいありません。でも、これがベストじゃない。アイヌの人たちが自分たちの文化を自然に次の世代に伝えていける社会ができてほしい」と願っています。

アイヌ研究は国際的なテーマ。

 加藤教授の専門は考古学。「人類はアフリカに発祥した熱帯型の生物種。それがなぜ北緯70度の北極圏まで拡散して、狩猟採集生活に基盤を置いた独自の歴史を展開していったのか。それを解明したくて研究をスタートした」そうです。本学には2001年に、文学部の北方文化論講座を担当するためにやって来ました。
 ところがセンター設立の際、かかわってくれる考古学の適任者を見つけられず、自身が異動することに。以来、専門が1つ増え、"Indigenous Archaeology"「先住民考古学」の研究にも取り組んでいます。じつはこの「先住民考古学」という訳語は加藤教授による造語。研究者のスタンスからではなく、先住民族の立場に立って考える考古学を言います。アメリカやカナダ、北欧、オーストラリアへ目を向け、海外で考古学者が先住民族やその歴史とどうかかわっているかを調べて論文を書いたところ、国内からの反応は必ずしも良くありませんでした。しかし、海外では大きな反響があり、「先住民の研究を始めてから、世界の研究者との関係は爆発的に広がり、より国際的な舞台で仕事をする機会が増えた」と言います。
 アイヌ民族が置かれている状況、もしくはアイヌ民族の歴史や文化に関して英語で書かれた文献がきわめて少ないため、海外からは情報発信をもとめる強い要望があります。若い方々へのメッセージは「アイヌ文化に関してここまで組織的に学べる大学は他にはありません。もしアイヌ研究をしたいのであれば、北大をぜひ薦めたいところです。この研究をすることは、海外に向けて発信する役割を背負うことになり、自ずと海外との交流も増えますし、海外での先住民族の状況についても勉強しないと対応できません。アイヌ研究というと、北海道の地域研究のように思うかもしれませんが、課題としては国際的なテーマです」ということでした。

「国際フィールドスクール・イン・礼文島」で国内外の学生が交流。

 センターでは夏に「国際フィールドスクール・イン・礼文島」を開催しています。島には、数千年間かけて形成された砂丘の堆積層があり、そこを調査することによって、長期的な気候環境変動と人類集団の生活の痕跡を見てとることができます。このプロジェクトには、本学に加え、カナダ、アメリカ、イギリスなどからも学生・院生が参加。最新の調査技術や研究分析の注意点などを各分野の専門家から学ぶ他、歴史文化遺産をどのように地域社会の資源として活用できるかについて議論しています。