特集2 北海道大学アイヌ・先住民研究センター

北海道大学アイヌ・先住民研究センターのユニークな研究者たち。

落合研一

日本社会全体が幸福になる視点をもって。

 たとえばの話。Aさんは3億円の豪邸に住み、愛車はフェラーリです。Bさんは3畳一間に暮らし、食料も満足に買えません。国から「おふたりとも、人としての価値は等しいですから」と言われて何もしてもらえなかったとしたら、Bさんは「平等だから仕方がない」と割り切れるでしょうか。
 落合研一准教授は「14条に『法の下の平等』を定めている日本国憲法の下で、アイヌの人々だけを対象にした政策がどのような理由でどの程度実施できるのか」という研究をしています。「アイヌの人たちに幸福になってもらいたいけれど、憲法の性質上、日本社会全体が幸福になる視点も欠かせない。だから、行政に進言する一方、アイヌの人たちにも理解してもらえるよう丁寧にお伝えしている」そうで、平取、白老、阿寒など各地を訪ね、「専攻は憲法学なのにフィールドワークが増えて」と笑います。
 「アイヌの人たちに関する政策を持続可能なものにするには、多数派の人たちに理解してもらい支持してもらうしかない。それには対話が重要。説明をして、質問をいただいて、それに答えて議論を深めていけば、理解してもらえることも少なくないはず。理解してくれる人が増えれば、民主主義の決定においても政策の必要性が認められるようになる」。そんな考えから、落合准教授は本学でも他大学でもコミュニケーションを重視した参加しがいのある講義をおこなっています。「憲法学はむずかしそう」と思い込まずに、機会があればぜひ出席してみてはいかがでしょうか。

蓑島 栄紀

北の社会は古代からグローバルだった!?

 『源氏物語』の一場面。光源氏は、見目麗しくない(とされる)末摘花がクロテンのコートを着ているのを見て「立派だけれど、若い女性のファッションとして、ちょっとどうなの?」といったことを言います。蓑島栄紀准教授はこのクロテンを「サハリン産である可能性が非常に高い。当時アイヌ民族は活動をサハリンまで広げていて、そこからもたらされたモノ抜きには、雅な平安貴族の暮らしは成り立ちえなかった」と考えています。そして、「アイヌは平和で素朴で自然と共に暮らしているイメージが強いかもしれないけれど、日本とも大陸とも行き来して物を取引していた。北方の世界は古代からグローバルだった」という説を展開しています。
 遠くの出来事がじつは自分にかかわっていて、自分のふるまいが遠くの人に影響を及ぼしているのが現代社会。「神々や自然に対する畏敬の気持ちとシビアな商品経済の世界を、矛盾しないでつなぎ合わせる文化や思想をつくり上げてきたのがアイヌ文化」だとすれば、そこから学ぶことは多いでしょう。
 蓑島准教授は論文を書いていて「あ!わかった!」という瞬間には、「誰も知らない景色を初めて見たような感動」を味わうそうです。学生のみなさんには「自分の道を見つけてがんばって、幸せになってほしい。ただ、文化の多様性やアイヌの人たちの厳しい歴史も知った上で、より成熟した大人になっていってもらいたいな」と願っています。

山崎 幸治

アイヌ文化は、これから再び花開く。

 海外アイヌ・コレクションを研究する山崎幸治准教授は「アメリカやヨーロッパなどに流出した資料をアイヌのコミュニティに情報として戻していくことで、文化を再活性化できないか」と考えています。お土産用として作られる民芸品は画一化されがちですが、本来アイヌのデザインは多様で自由で、地域性や作家性を追求すると個性が見えてくるそうです。「差別と時代の流れの中で、自分の家に伝わる技術やデザインを次の世代に受け継がせることをあきらめざるをえなかったアイヌの人たちは多い。子孫が博物館にある資料を見て、固定概念を解放してほしい」と、今後の展開を楽しみにしています。
 また、プロジェクトとして古いアイヌ資料の複製も実施。2009年には北大植物園所蔵のアイヌ資料を現代の工芸作家の手で複製し、並べて展示しました。ここで言う「複製」とは「現代の工芸作家が自らのできる範囲で先人の残した作品にできるだけ近いものを作る試み」を意味し、厳密には現代の工芸作家の新たな作品と言えます。
 これまでの民族学関係の博物館は、たとえばピカソの作品に「スペイン/油絵」とだけ書いたキャプションを付すような状況であったので、今後はできるだけ個人のレベルで記録し紹介していきたいそうです。「世界的な潮流の中でアイヌの状況を考えてみたい」と、やはり山崎准教授も世界を視野に入れています。